テレビ業界残酷物語。

先日、テレビ業界の人と飲んだ。

以前テレビ局で番組製作に携わり、今はその経験を活かして広告営業の仕事を自分でされている。

その人とは初対面であったが、私が普段まったくつながりがない世界なので、彼の話はとても面白かった。

もう10年くらい前だそうだけど、その人は某テレビ局でADの仕事をしていたそうで、ADの残酷物語たるや想像を絶するものがある。

たとえば長時間労働は当たり前で、それはテレビ局に限らず他の業界でも珍しいことではないが、あるとき時給換算してみたら、たったの300円だと知り愕然としたことがあるそうだ。

で、何しろ忙しいので家に帰ることもほとんどなく、アパートを借りている意味がないとよく思ったとのこと。

周りからは「テレビ局に住民票を移しちゃえば?」と、半ば真剣に言われたみたいで、一週間の睡眠時間が一桁ということもよくあったらしい。

ということで、まず睡眠時間が圧倒的に少ない。

これではさすがに体はもたないだろうと聞いてみたら、移動時間が貴重な睡眠の時間らしい。

電車に座ったとき、タクシーに乗った時が絶好の睡眠時間らしく、ADをやめた今でも、どこでもすぐ寝れるのが唯一の特技だと言っていた。

で、上司からは意味もなくボコボコに殴られ、本当に何度殴り返そうと思ったか数しれないとも。

ある同僚のADは、上司にたてつき、イスにガムテープでぐるぐる巻きにされ、タレントさんが使うエレベーターにそのまま乗せられたそうである。

途中で乗ってきたタレントさんは、さぞかし驚いたに違いない。

このように、実に過酷なAD時代だったようだけど、食費だけは全然かからなかったそうで、それは弁当が出たから。

もう少し正確に言うと、AD用に弁当など出てこないけど、タレントやスタッフの分を注文するときに、かならず2〜3個余分に注文するそうで(余るより、足らないことの方が問題だから)、で、結果的に毎回必ず弁当が余る。

それがスタジオのある場所に置かれ、暗黙の了解でADなどが空気を読んで食べることができたらしい。

そしてその彼が飲み会の最後の方に言った一言。


「最近はテレビ局もずいぶん平和になったもんだ」。


広告の仕事でテレビ局に今でも出入りしているその彼は、まず廊下で寝ているADの姿はまったく見なくなったようで、それだけでも昔より随分改善されているように見えるらしい。

昔は廊下に数人のADが寝ている光景は普通だったそうだ。

ということで、彼は残酷物語を話そうと思えばいくらでも話せ、それこそ一冊の本にするくらいのネタを持っているので、出版のお話も謹んでお受けするとのことである(笑)。